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おこごと
第4章 鬱刈色
入学から半年もすると、先生はその生徒に違和感を覚えたと言う。

友達もおり、成績も良い。教師にも従順でありながら、どこか醒めた目をしている。大人を舐めてかかっている、と最初は思ったが、どうやら反対らしい。

「あの子は人が怖いんですよ。野良猫みたいなもんです。長く教師をしていると、そういう生徒はわかるもんです。」
と近藤先生は言う。
「母一人子一人ですから。それで親にも悩みを相談出来ないのかとも思ったんですがね…。」

先生の眉間の皺が更に深くなる。

「先日、私、見たんですよ。」

「はあ、何を見たんでしょうか。」

「その子がラークホテルの客室用エレベーターに乗る所を見たんですよ。」
「ラークホテル…。」
都内の高級ホテルで、隼人もラウンジを利用した事がある。強気な値段設定と、なかなか予約が取れない事で話題のホテルだ。
そんな場所と、この人の良い先生が、結び付かない。隼人の内心を読んだかのように、近藤先生は、恥ずかし気に
「結婚記念日だったんですよ。」と笑う。

「娘夫婦も一緒でしたから、後を追うわけには行かなかったんですが、彼女が心配でね。」

「男性と一緒だったんでしょうか。」
「ええ、三十位ですかね。父親ではないでしょう。」
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