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可愛いヒモの育て方。
第6章 いざ、温泉旅行へ!
え? と思う間もなく、今度は麻人が私の手を掴んでくる。
「ほら、帰りますよー」
歩きながらも、まだ肩を震わせて笑っている。
「なんでそんな笑ってんのー?」
むっとして聞くと、麻人は震える声で、小さく「顔が」とつぶやいた。
「顔?」
「友梨香さんの顔が、なんか面白くて」
「え? すっぴんだから?」
「今さらじゃん、そんなの」
まだ笑っている。
ようやく笑いがおさまったのか、麻人が大きく息をついた。
「じゃなくて、友梨香さんが俺の手を掴んだ時の顔が、子供みたいで面白かったんです。ほら、スーパーとかで、たまにはぐれちゃう小さい子とかいるじゃないっすか? 必死で母親探して走りまわってる子とか。そんな感じの顔だった」
「なんだそれ。意味わからん」
実際、手を掴んだのは無意識だった。そんな時に自分がどんな表情をしてたかなんて、覚えてるはずがない。
だけど確かに、必死だったのかもしれない。
私は麻人より二歩ほど後ろを歩いていた。手を引かれるまま、自分たちの部屋に向かって。
ふいに麻人の後ろ姿が、別の男のものへと変わった。もっと大柄で、たくましかった男の背中へと。
顔のパーツは何一つ思い出せないのに、トーンの静かな声と、後ろ姿はよく覚えている。
タバコと酒が好きだった。あまり笑わない人だった。
あの男と過ごす時。私はいつも何かに必死だった。
拒絶。さっきの麻人みたいな。
「ほら、ちょうど夕食来てる」
麻人の弾んだ声で、私は顔を上げた。女将がちょうど夕食を運んでいるところだった。
結局部屋に戻るまで、私は麻人の手を離さなかった。