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執事とお嬢様の禁断の模様
第4章 更なる山道

えっ…婚約者…?
うそ……
今までずっと明るい話題で話していたのに、いつの間にこんな話題に流れてしまったのだろう。
「それって……本当?」
信じがたくて、恐る恐る沙耶香に問う私。
「うん。だから、しかたないかな…って」
そう言って笑う沙耶香。
でも目は、全然笑っていない……
そんな顔しないで…
胸が、痛い……
「その人、ね。孝博さんが小さい頃からずっと…婚約者だったんだって。
いきなり家に押しかけてきて…孝博さんは覚えがないって言うんだけど、
ちゃんと証拠があってね…書類によると、ちゃんと正式に婚約してるらしいの…だから」
うつむいているため、前髪に隠れて沙耶香の表情は見えない。
口元は笑っているが、実際今、どんな気持ちなのだろう…
「だから…諦める、の?」
「……だって、どうしようもないもの」
「沙耶香…」
そう言う沙耶香の声は、悲痛で溢れていた。
「別に、孝博さんが私のこと想ってなくてもいいの。
他の女のものになっても…それはしかたないって、思ってる。
でもね……――」
ポロ…
「…っ」
沙耶香の頬を、銀のしずくが伝った。
「孝博さんがっ…他のところに行っちゃうのはイヤなの…っ!」
「っ…~!」
このとき私は、初めて沙耶香の涙を見たということに気づいた。

