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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
 寺というよりは、御堂といった方がふさわしいような、こじんまりとした造りである。石段も半ば崩れているし、御堂を囲むかつて庭であったらしいものは草だらけだ。月明かりに浮かび上がった小さな建物はどこか幻想的にも見えるが、これだけ荒れていては陽の光の下で見れば悲惨なものに違いない。
 狭い境内の片隅に一本だけ白梅がちらほらと花をつけているのが何とも場違いのようだ。時折、かすかに甘い香りがするのは、その花のせいだと直に判った。
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