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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第20章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 定命  
 今はまだ九月になったばかりなのに、椿が咲いているはずがない。このかぐわしい香りは先ほどまでの妖しく甘美な夢想の残滓、残り香なのか、それとも、現実だとすれば、小紅の膚から立ち上る甘い匂いなのか。
 栄佐はふっと誘われるように近づき、小紅の艶やかな黒髪に触れた。
「栄佐さん?」
 不思議そうに呼ぶ小紅をそっと引き寄せ、腕に閉じ込める。
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