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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第23章 第二部・第五話 【冬柿】 冬柿
 徳市は大家の隠居の碁仲閒で、こちらは小さな小間物屋を営んでいると聞いた。年は五十手前くらいの温厚で物分かりの良い男だ。徳市なら歓んで仲人も引き受けてくれそうである。
 そんなことまで考えて栄佐は心弾ませていた。小紅のことで頭が一杯だった彼はしばらく呼ばれているのにも気づかなかった。
「―栄さん、栄さん」
 ハッとして我に返る。見れば眼前で手のひらがしきりに振られていた。
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