この作品は18歳未満閲覧禁止です
一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第4章 【残り菊~小紅と碧天~】 流星
小紅は出来上がったばかりの蕎麦を丼に入れ、盆に乗せた。
「どうぞ、召し上がれ」
「おう、蕎麦か、こいつはありがてぇ」
栄佐は心底から嬉しげな声を上げた。
栄佐が板東碧天だという話を聞いてから十日ほどが過ぎている。
その日、栄佐は芝居小屋の方は休みだということで、長屋にいた。月の半分くらいは舞台に出て、半分は長屋で針医の仕事をしている。舞台がある日は両国広小路の芝居小屋に詰めていて、留守なのだ。