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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
 翌朝の目覚めは最悪だった。哀しい夢、怖ろしい夢―父が無物言わぬ水死体となり川面をゆらゆらと漂う様、巨大な黒い影がどこまでも小紅を追いかけて食らいつくそうとする夢が交互に現れた。大概が小紅は一糸纏わぬ裸で、その影は裸の小紅に纏いつき、嫌らしく素肌の上を這い回るのだ。
 小紅は泣き叫んで助けを請うのだけれど、誰も助けてくれず、夢はいつも同じ場面で終わった。
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