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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
 目覚めた時、頬には幾筋もの涙の跡が残っていた。とにかく顔を洗い、幾分さっぱりした気持ちで飯を炊き、大きめの握り飯を幾つもこしらえた。それに漬け物を添えて皿に盛って隣を訪ねたのは目覚めてきっかり一刻半後のことだった。
 既に長屋の住人はあらかた仕事に出ている刻限である。お天道さまはとっくに高くなり、長屋にいる女たちもそれぞれが井戸端で洗濯したり、中で内職仕事に精を出したりと各々の仕事にいそしんでいた。
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