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魅惑的な指先
第1章 プロローグ

電車が止まりドアが開くと、男の腕をねじり挙げた男性は男を車外に引き連れて行く。


一緒に居た女性は私に
「貴女も一緒に来て下さい。」
と言ったけれど…


どうしても今日は遅れるわけにはいかなくて、その女性に首を振って見せた。



「貴女が来ないと、話が進まないのよ?」



きっと、痴漢取締りの私服警官なのだろう。
私だって本当ならば着いていって鬱憤を晴らしたい。



「もしも次があったら、その時は…お願い致します。
今日は、急いでいるので…。」



私がそう言うと、その女性は大きな溜め息をつきながら車外に出て行った。


「もしも次があったら、」とは言ったけれど、多分次は無いんだと思う。
顔バレした相手に、次は無いんだと思っていたからだ。


ベルの音が鳴り響きドアが閉まると、窓から見える痴漢男と目があった。

互いに睨み付けながら。


電車が動き出した後、その痴漢男の口の端がつり上がっていたのを私は見ることが出来なかった。







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