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狂人、淫獣を作る
第3章 飼育
(5)
結芽は起き上がると、クッションを両手で胸の前で抱きかかえながら続けた。
「ねえ、どっちのお嫁さんがいいかなあ?」
「……う〜ん、そうだね……」リナが言葉に詰まる。
マユはじっと下を見ている。
「お前ら、楽しそうじゃないか?」
マユとリナは電気に打たれたように、座りながらサッと姿勢を正した。
後藤が部屋に入ってきて放った声だった。
「パパ!」結芽は飛び上がるように後藤の元へ駆け寄って無邪気な笑顔で抱きついた。
結芽に抱きつかれた後藤の顔は、純粋に『ただの父親』だった。それ以上でもそれ以下でもなかった。心の底から湧き出た笑顔で、結芽の顔を見ながら頭を撫でてやっている。
結芽は後藤に撫でられながら、マユとリナの方を向いて言った。
「パパのお仕事のお手伝いって、何やるの〜?」
部屋中が沈黙に包まれる。
「……ナイショ」リナが精一杯の笑顔で言った。
「あー。リナお姉ちゃん、ユメのまねっこしてるー!」
「ほら、結芽。ママが下に迎えに来てるから行っておいで」
「うん! パパ、今日もお風呂一緒に入ろ?」
後藤がほほ笑みながらうなずく。
結芽はマユとリナに向かって「バイバイ!」と手を振って部屋の入口へと走っていった。結芽は部屋から一歩出ると、少し戻って顔を出して言った。
「お姉ちゃんたち、さっきの話はナイショだよ?」
そして『純粋』な笑顔をあたり一面に振りまいて走り去っていった。
マユとリナはソファから立ち上がると、そのまま動かずじっとしていた。
部屋には彼女たちと後藤の三人だけになった。
どことなく張り詰めた空気が流れる。
後藤は窓の方へと歩み寄り、下の道路を見る。白の高級セダンが走り去っていくのが見えた。
もう一台、黒の高級セダンが止まっている。
後藤は振り向き、マユとリナに向かってあごを少し動かした。
マユとリナは、黙ったまま服を整え、部屋を順に出て行った。
彼女たちに笑顔はなかったが、二人ともその瞳が潤んでいるように――見えた。