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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第17章
「うん。でも、でもね……」
「ん?」
「どんどん自分の背が伸びて、お兄ちゃんも大人になって身長が安定して」
海から吹き寄せる風は暖かく心地良いのに、ぶるりと震えた腕の中の妹に、背後の兄が微かに身じろぎする。
「そうしたら、どんどん不安になっていった……。これ以上背が伸びたら、私、もう “こうやって” 抱っこして貰えないんじゃないかって」
「ヴィクトリア……?」
気遣わしげに取られたサングラス。
いつの間にか滲んでいた涙を見られたくなくて、目の前の逞しい胸に顔を埋めた。
「怖かった。物凄く怖かった……っ で、身長が止まった時、私、物凄くほっとしたの。ああ、これなら、これくらいの身長だったら、まだ抱きしめてもらえるかな?って」
成長するにつれ無自覚だった恋心を募らせた自分は、そうして更に兄への思慕を深めた。
「バカ……。どれだけ大きくなっても、俺はお前のことを抱っこだってなんだってしてあげられるのに」
顎下に添えられた指で上を向かされれば、視界に入った匠海は「まさかそんなことで幼い妹が心を痛めていただなんて」と、信じられない様な表情を浮かべていた。
「うん、そうだよね……。今、そうだったんだなって。なんにも悩む必要なんて無かったんだなって、気づいた」
ぱちぱちと瞬きをし涙を押しやったヴィヴィは、それでもなお苦しそうに灰色の瞳を細める。
「でも……、でもね、あの時は、大人になるのが少し、怖かったよ……」
何かから逃げるように兄のシャツに縋り付けば、その手に大きく暖かな掌が重ねられる。
「そうかぁ。でも俺にとっては、ヴィヴィはいつまでたっても小さな可愛い女の子なんだけどなぁ」
ちゅっと、愛おしそうに髪に落とされた口づけ。
そして、ありとあらゆる困難や立ちはだかる障壁から守り労わってくれた両腕は、広い胸に簡単に掻き抱き、すっぽりと外界から隠せてしまう。
そう。
兄にとっての私は、いつまでも小さな可愛い女の子。
時に酷い裏切りをしようが、道を踏み外そうが、根本は “庇護し愛でる対象にある妹”。
だから “それ以上” にも “それ以下” にもなることは、
もう、どれだけ待ってもあり得ない――