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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章       

「だから、全てを縛り付けたかった……っ 俺に……。身も心も、すべて……っ!」

そう勝手な言い分を喚いた兄に、妹は強引に口を塞がれた。

15歳から慣れ親しんだ兄の唇にも、身体の底から湧き上がってきたのは拒絶。

唇の合わせから力任せに捻じ込まれた舌を、思いっきり噛んでやろうとした、その時。

びくり、と薄っぺらい身体を震わせたヴィヴィ。

頬に落ちてきた、熱くて濡れたもの。

それは、

匠海が苦しんで悔しんで、その強靭な身体から絞り出した涙、だったから。

「………………っ」

「怖かった……。お前が他の男の傍に立つだけで、神経が逆立って。お前が他の男に笑いかけるだけで、ひたすら吐き気がした……」

兄が洗いざらい晒した、己の中で醸造しすぎた男の醜い嫉妬。

肌が見える着衣を制限したり、一緒に写真に映っただけの男に嫉妬したり、飴と鞭を繰り返して相手を翻弄し追い詰めたり。

『抱かれてんじゃねーよっっ!!』

幼馴染のアレックスに卒業プロムで告白された時、抱擁を許してしまった妹に向けられた怒鳴り声。

自分勝手過ぎるし、独占欲も行き過ぎている、けれど。

今振り返って思うのは、ただ一つ。


どうして?

どうして傍に私がいたのに、

兄はそんなに孤独だったのか――?


今頃になって明かされる匠海の心の闇に、付いていけないヴィヴィの頭の中がゴチャゴチャになっていた。

「お前を失うのが、本当に怖くて。恐ろしくて……。だから……、全てを失う前に、保険を」

「……保……険……?」

強張った声で語尾を拾ったヴィヴィだったが、その先を知りたくて発した訳ではなかった。


聞きたくない。

知りたくない。

もう、これ以上、

自分に不都合な現実を目の当たりにしたくなかった。


「だが、本当に欲しいものは、そんなものじゃなくて。どうやったって足りなくて……」

妹の様子など目に入っていない兄は、ただただ己の心を曝け出し続ける。

「あの子達を愛しい、そう、思いながら……。それでも頭の片隅では “お前との子” なら、もっと……って」

(いやだ、待って……。保険……? 保険って、匠斗と瞳吾のこと……? まさかっ そんな、そんなのって……っ)

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