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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
「一生……お兄ちゃんしか、知らないでいたかったのに……っ
お兄ちゃんの感触しか、知らないでいたかったのに……」
そう呼び掛けても、微笑みを湛えたままの匠海は、
何一つ答えてくれなくて。
それはたぶん、
今現在の27歳の匠海でも、きっと同じだっただろう。
「……ヴィヴィ、先にいくね……。
お兄ちゃんよりも先に逝って、待ってるね……?」
全ての運命の指針を狂わせた、
その根源は “自分” ――。
その償いを生きて果たしたかったが、
もう今の自分には、そんな気力も、
生に執着する生命力も皆無だった。
「そうしたら、お兄ちゃん。
ヴィヴィのこと……、
ちょっとは、赦してくれる……?」
最後に泣き笑いを浮かべ、兄の優しさに縋ってみても、
やはり目の前に佇む匠海は、微笑むだけで。
「……ごめん、なさい……。
ごめんなさい。
お兄ちゃん――」
せめて偶像の兄に対してでも、謝罪したくて。
金の頭を下げながら、
ヴィヴィは延々と、泣き続けていた――。
そうして、
今日も “生” から逃れられない1日が始まる――。
寝ながら泣いていたらしい自分は、
目が覚めても涙で視界が滲んでいて。
そんな事にも、まだ生きている自分を自覚され、
己を取り巻く全てのもの――重力、空気、湿度。
そして、
家族、スケート、大学、友人。
大切な筈のそれら全てから、
起き抜けた直後にも関わらず、逃げ出したくなっている自分がいた。
涙を拭おうと右手を持ち上げようとしても、
何故か腕が上がらなくて。
そう言えば、昨夜はクリスが監視の役目も兼ねて、自分を抱き込んで眠っていた。
自由にならぬ身体に嘆息しながら、
目蓋に溜まったままの涙を、何度か瞬きして散らし。
そして、顔を上げて自分を抱き締めているクリスを見上げ。
「…………え…………?」
微かな疑問の声を上げた。