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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章     

 確か義姉はこのナマコ石鹸を自ら使用し、気に入ったから義妹へも贈ってくれて。

 そして、あの時の電話の感じでは、自分用にも買って帰る勢いだった。

 己の夫である匠海が、大の苦手とする “ナマコ石鹸” なのに。

(お兄ちゃん……。

 私が「さっき、ナマコ石鹸使ったの」って、えっちの最中に暴露したら、

 きっとトイレに飛んで行って「ぉえ……。ナマコ、舐めちゃった」って、

 吐くと思うんだけど……?)

 それ程までに匠海が大のナマコ嫌いという事を、妻である瞳子は知らないというのか――?

「…………まさか、ね」

 そんな些末な事など、どうでもいいやと、ヴィヴィはバスルームを後にした。

 濡れた髪をタオルドライしながら、部屋にある小さな冷蔵庫から、ガス入りミネラルウォーターを取り出し。

 新しく据え置かれた白革のカウチソファーへ、腰を下ろす。

 粘膜をしゅわしゅわと刺激する咽喉越しに、長かった一日の疲労が少し緩和されて。

 そうして腑抜けていると、

 小さな頭の中では勝手に、昨夜の匠海が囁き始める



『誰といても何処にいても何をしていても、俺が欲しいのは、ヴィクトリア』



 その口ぶりは、真摯な響きを持ち。

 その声音は、夢見る様に甘い。

 けれど、

 今のヴィヴィは、そんなものには惑わされやしない。

 何故なら、



 それは “嘘” だと知っているから――。



 その証拠に、匠海はこの1年3ヶ月、

 一度も連絡を寄越さなかったでは無いか。

 だから、大丈夫。

 絶対に、大丈夫。

 東京 と オックスフォード。

 こんなにも距離が離れれば、また気持ちも離れられる。

 匠海はもちろんの事、

 そう、自分も、きっと――。







 翌 日曜日には、ロンドンのオーウェン邸を訪ね。

 すっかり元気を取り戻した祖母の菊子と、約束通り青虫退治に取り組み。

 心配してくれていた父方の親族とも、お茶の席を囲んだりとのんびり過ごした。

 オックスフォードでは、また読書の虫となり。

 カレッジの仲間達とBBQをしたりと、それまで通り のどかな日常を送っていた。

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