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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章
そして、
ヴィヴィが何故、この事について重く受け止めてしまうかというと――迷っているから。
おそらくきっと、自分にとって最後になるであろう、2026年の五輪。
4年間の集大成・自身のスケート人生の締め括り――とも言える大会に、
自分はどちらの国籍で、出場すべきなのか――? を。
オレンジジュースを啜りながら、
(両国に恩売られて、最後には身動き取れなくなってそう……。考えるだけに恐ろしい……)
と弱気に怯える、ヴィヴィの目の前。
妹から取り上げた書類を、折り始めた兄は、
何故だか紙飛行機にして、大会議室の隅っこまで飛ばしてしまって。
「ク、クリス……?」
重要書類に何てことしてるんだ? と灰色の目を丸くするヴィヴィに、
「今は、何も考えなくて、いい……」
そう言って寄越すクリスは、好物のスモークチキンサンドを頬張りはじめる。
「でも……」
明日にショーを控えて、今さら尻込みする妹にも、双子の兄は辛抱強かった。
「決断するのは、自分自身、でしょう……? 周りに流されて、本当の気持ちを、見失ってはいけないよ……」
妹に似た薄い唇に付いたソースを、ペロッと舐め。
真っ直ぐに瞳を射抜きながら、諭してくるクリスに、
「……そう、だね……」
ヴィヴィは静かに頷く。
「そんな顔、してないで……。ほら、ランチ食べないと力、出ないよ……? スープも、サラダもヨーグルトも、ついでにフルーツも、全部食べて……」
目の前にどんどん食べ物を積み上げていくクリスに、それが彼なりの励ましとは判ってはいても、
「えっと……、こんなに食べたら、逆にお腹下します……」
苦笑したヴィヴィは、それら全部をクリスの目の前へと押しやってやったのだった。