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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第9章       

「クリスも、だろう?」

 こちらには視線を寄越さず、左右の爪を彩っていく匠海に、

 薄い唇から零れたのは、心底 羨まし気な声。

「まあ、確かに……。いいなあ……」

 上の兄も、双子の兄も。

 頭の回転が速く、一を聞いて十を知り。

 器用で、体力気力にも恵まれ。

 その上、比類なき天賦の才をも持ち合わせている。

 それに比べ、自分なんて、

 不様に つまづいて転んで泥んこで。

 頭の良い人間は、すいすい自分の隣を追い越して行く。

(何だかなあ……。天は二物も三物も与えたってか~?

 まったく。不公平過ぎやしませんか、神様ぁ……)

 全然 信じていない神に、薄い胸の中で不平不満を漏らしたヴィヴィ。

 とは言っても。

 生まれた瞬間からその不公平さを、2人の兄に身を以て知らしめられて来たので、もう達観していた。

 どうやら、ネイルは終わったらしく。

 キュキュっと軽い音を立て、小瓶を閉めた匠海。

 何故か、シャンパンクーラーを手元に引き寄せ、大きめの唇を開く。

「ヴィクトリアは、なあ……」

「ふんだ……。どうせぇ~~、天才型じゃないもん」

 兄に促され、銀製のそこに充たされた氷水の中に指先を浸せば、ネイルはこれで完璧に乾くらしい。

 濡れた指先を、タオルで丁寧に挟んだ匠海は、そこでやっとヴィヴィの顔を覗き込んだ。

「まあ、そうだな。だって、ヴィクトリアは “努力の人” だから――」

「……へ……?」

 思わず変な声を出し、兄を見上げれば。

 真っ直ぐに向けられていた切れ長の瞳が、柔らかく細まる。

「だから、ヴィクトリアは文武両道だし、天才型のクリスとも、同じところに立って居られる」

「………………」

 何故か押し黙ってしまったヴィヴィに、匠海はトップコートのジェルマニキュアを塗り始める。

「……そうだなあ、だから」

 沈黙を破り、続けた匠海に、

「……ん?」

 ふっと顔を上げたヴィヴィは、自分を横抱きしている男に、視線で先を促した。

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