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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章
それにしても、ピアノの前に座りこんだ昔の男。
その目の前で踊り続ける自分は、大層な道化だろう。
音楽もカウントさえも無い静かな空間には、トウシューズが床を叩き踏み切る軽やかな音と、
腰に巻いた白スカートがひらめく、微かな衣擦れの音だけ。
引き締まった背中で はらはらと舞う金の髪は、
雨が小降りになり ようやく曇り雲越しに現れた薄暗い朝日を、鈍く反射させていた。
そしてラスト。
紺のレオタードの胸をすっと張り、ストゥ・ニュー(片足を一歩出しその前に他方の足を5番に閉じながら回転)し。
歪みの無いピルエット(両足で踏切り片足で回転)を、ストゥ・ニューを挟みながら繰り返す。
そして最後に易々と3回転ピルエットを決めたヴィヴィは、右脚を前に伸ばしながら左膝を折り畳み、
まるで「もうこれ以上は踊らなくてよ」とでも言いたげに座り込むと、床上でツンとしながらラストを締め括った。
何とか一通り踊り終わり、踊り手の吐息がけが落ちるそこに、
男が長椅子の上で脚を組み直した、革が軋む音が静かに重なる。
「“魔女” と言うには愛らしい “小悪魔” だな」
「………………」
匠海から掛けられたまさかの言葉に、ヴィヴィは視線を向けることさえしなかったけれど。
(……どうして、判っちゃうのよ……っ)
あまりに呆気無くバレエの演目を言い当ててしまった兄に、
いつもは愛らしい灰色の瞳が、前髪の陰で気まずそうに歪む。
“サタネラ” という魔女の名は、サタン(悪魔)をもじったもの。
ステージで頭に黒羽根を付けて踊られるのは、
それが “悪魔のしるし” だから。