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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章
古い映画のメインテーマ
ラテン音楽
古典バレエの代表曲
代わる代わる流される曲のサビ部分に合わせ、
しなやかな筋肉で引き締まった身体は、文字通り氷の上を舞っていた。
4月16日(火)
松濤国際SCのサブリンク。
早朝からの自主練を経て通常営業が開始される時間から、ヴィヴィの2024―2025年シーズン FSの選曲が行われていた。
離婚を決意した筈の夫を事故で失い、過去に犯した夫の罪に巻き込まれるサスペンス映画のヒロイン。
ブラジリアン・リゾート気分の漂う、開放感あふれるボサノバ。
自分を空想上の姫君と勘違いするオジサンをからかいつつ、カスタネットを打ち鳴らし踊る町娘。
振付師・宮田が選曲したそれらを、ヴィヴィがアドリブの振付で滑って見せれば、
「うん、どれも素敵で、どれも本番で滑っている姿が想像出来るな」
「まあ、ヴィヴィは勘だけは良いから~~」
リンクサイドで様子を見ていた元サブコーチと元コーチは、フェンスに頬杖を突きながら のほほんとそんな感想を漏らし、
そろそろ始まる自分達のレッスンに向け、メインリンクへと去って行った。
『悪い、無理だ。他の曲に変更するか、若しくは振付師を変更してくれ』
昨日、反論する余地さえ与えず、そう切り捨てた宮田だったが。
本日クリスの振付最終日を迎えても責任感の強い彼は、ヴィヴィを投げ出し本拠地の関西に戻るつもりは無いらしい。
「じゃあ、最後――」
そう声掛けをして振付師が流したのは、他の3曲とは比較にならぬ程、日本のフィギュアファンから愛される有名曲だった。
詩的なロマンティシズムに満ちた旋律は、どこまでも伸びやかで。
金の頭によぎったのも、敬愛するスケーターのしなやかな滑りと、たおやかな表現。
色鮮やかなピアノの調べが甘美な恋の世界へと誘う――その曲が流れる中。
しかしヴィヴィは愛らしい顔を強張らせ、指先の一つさえ動かす事も ままならなかった。