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どこまでも玩具
第9章 質された前科
 「多分?」
 オレは口を濁す。
 「一回だけ、病院で紅乃木って呼ばれてたおっさんを見かけたんだ。本人かはわからないけど」
 「顔は覚えてる?」
 「一応は」
 「はい」
 類沢が紙とペンを渡す。
 受け取って、首を振る。
 「いやいや、ムリだから」
 「覚えてる限りでいいから」
 「絵とか下手だからっ」
 「誰が絵って云ったの? 特徴を箇条書きで書きなよ」
 あ、そういう。
 オレはほっとしてペンを握る。
 そうだ。
 彫りは深かった。
 目の下は角張ってて、髭はない。
 眉にかかる程度の髪の毛。
 背は真っ直ぐだった。
 年齢は五十前半。
 あとは、なんだ。
 類沢は観察するようにメモを眺めている。
 「異常な癖とか無かった?」
 「癖?」
 「なにかあった?」
 記憶を手繰る。
 どこか独特だった。
 なんでだっけ。
 仕草、とか。
 雰囲気とか。
 「そうだ、なにかとほっぺをトントン指で叩いてた」
 「いつも?」
 「まさか。苛々したとき決まって、そうやってた」
 「苛々、ね」
 類沢はタバコに火を付けた。
 灰皿を寄せる。
 まだ、少し灰が残ってる皿を。
 今は亡き、瑞希の父親のだ。
 同じ父親で、なんて違う。
 切なくなる。
 子は生まれる家を選べない。
 
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