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どこまでも玩具
第10章 晴らされた執念
襟梛はツカツカと近寄って来た。
顔は、昔見たのと変わらない。
少しだけ丸みを帯びただろうか。
ただ、その眼の鋭さは見たことがなかった。
「はじめまして。哲の母の襟梛です」
類沢に向けた言葉。
だが、自分にも突き刺さってくる。
お前も当事者だ。
そう云われてる気がして。
「どうも。息子さんの教員、類沢雅です」
一旦礼をして、類沢は続けた。
「大変お訊きしづらいのですが、何故このような手段で来られたのでしょう?」
「気づいていましたか」
襟梛はやんわり微笑む。
家に遊びに行ったとき、紅茶を差し出したあの笑顔。
それが直ぐに消える。
「先に行かれる訳にはいかないんです。これは私と夫の問題ですから」
殺気。
ブルッと背中が震えた。
アカに似ている。
あの夕暮れの時、笑ってナイフを回したアカに。
「どうするおつもりですか」
「話し合いをするだけです」
「今までそうしたことが?」
「二度と会う気はなかったので」
ありません。
そういうことか。
類沢が曖昧に笑う。
嘲笑にも、同情にも見えた。
「貴方の息子さんは、父親に何をされたかこの二人には話しました」
襟梛の目が変わる。
「立派な暴力です。女性一人で行くのは見逃せません」
「大丈夫です」
怒気が帯びる。
アカの母は、上着の胸元に手を入れる。
そこに何を隠しているのか。
「私は妻ですし、母ですから。子を守ってみせます」
「一人で守れなかった癖に」
「え?」
金原が歩み出る。
「あの日、アカが父親を刺した日、あんたは止められなかったんだろ?」
「……」
「一緒に計画を立てるって約束したんじゃなかったっけ」
「でもあなた達は勝手にこうして来たじゃない」
「それは悪かったです」
「なっ…」
「でも信じて下さい」
金原は姿勢を正して、襟梛を真っ直ぐ見つめた。
「オレらは貴方の息子さんを助けたくて来たんです」
類沢は穏やかな表情で成り行きを見守っていた。
「出来たら誰にも怪我をしてほしくない。そう思っています」
襟梛が手を下ろす。
無表情だ。
「……哲が、なにされてても?」
金原は口をつぐんだ。
「あの男にまた哲が傷つけられていても何もしちゃいけないの?」
俺は俯いた。
「私だってちゃんと考えて来たの」
「そうですかね」