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どこまでも玩具
第10章 晴らされた執念
類沢の冷たい声が空気を貫いた。
「どうもそうは思えませんが」
「な、なにを言うの」
「今の生活は楽しいですか?」
襟梛はカタカタ震えた。
まるで、一瞬で心の内を暴かれたように。
「私の意見で恐縮です。ただ、こう見えるんですよ。貴方は今の新しい生活を大切に思っていらっしゃる」
金原を一瞬見る。
そうか。
昨日報告を受けたのか。
金原が襟梛の家に行ったことは車で聞いた。
「幸せが募るほど、不幸は煩わしい存在になります。だから過去は出来たら忘れたい。私には貴方が過去のしがらみを、ただ断ち切りたいように見えるのです」
「あ……」
「ただの推測ですがね」
類沢はニコリと笑い、襟梛の前に立つ。
「車の後部座席に、何を敷いているんですか」
「あ……あぁあ」
俺は眉を潜めて、そちらを見る。
一瞬早く金原が声を上げた。
「ミラーからも見えましたよ、ブルーシートが」
襟梛はヨロヨロと車にもたれる。
キッと俺達を睨んで。
類沢の声のトーンは変わらない。
「まだ何もしていないんです。何もしなくていいかもしれませんよ」
「よく確証も無いことを」
「よく確証も無く殺す気でいられますね」
沈黙が走る。
類沢は避けもせずストレートに尋ねきった。
「……帰って下さい」
襟梛は玄関に向かう。
門に伸ばした手を走って止めたのは俺だった。
彼女も予想外だったようだ。
「瑞希……くん?」
「俺はっ」
感情を抑える。
「俺は、危うくアカを人殺しにするところでした」
「え?」
「アイツは……親友の為なら院に入るのも厭わない奴です」
息を吸う。
「その時、庇ってくれたのが其処にいる類沢先生だったんです」
類沢は突然名前を呼ばれ、片眉を上げた。
「俺と金原はアカの親友です。そして、類沢先生は恩人です。アカを助ける権利は俺達にもあるはずですよね」
「その通りだな」
カタリ。
全員が玄関を振り向く。
低い、透き通った声。
それでいて脳までこびりつく声。
「あなた…」
襟梛が殺気立つ。
「あぁ、久しぶりだな。今更何の用だ、襟梛? 娘が出来たみたいじゃないか」
ビクリ。
不意打ちを食らったように、彼女は怯んだ。
男はフッと口元を緩めて笑う。
「櫻だったか? 可愛い娘らしいじゃないか」
誰もが感じた。
異常さを。