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どこまでも玩具
第11章 立たされた境地

 類沢先生、訪ねて来てよ。
 来てよ、今すぐ。
 あの日みたいにさ。
 今度は素直に入れるから。
 ストーブの重みが手にかかる。
 今にもチャイムが鳴る気がして。
 裸足が冷たくなるまで玄関を見ていた。

 翌日、篠田が言った。
 「保健の類沢先生が暫く休暇をとりました。具合悪くなったら職員室に来てください。代わりの先生は来週から来ます」
 すぐに廊下に飛び出し、篠田を追った。
 ガッと肩を掴む。
 「類沢っ先生、どこに行ったんすか!」
 まだ、廊下に生徒はいない。
 篠田は真剣な顔をした。
 「……お前が当事者だと思っていたがな。類沢に裁判所から呼び出しがかかったんだ。このまま免許剥奪もありうると校長は言っていた」
 「は……はぁ?」
 俺は息が上手く出来なかった。
 篠田が去っていく。
 待て。
 待てよ。
 あんたも当事者だろっ。
 そう叫びたくなる。
 嘘だろ。
 世界においていかれてる。
 俺だけ。
 あの男のせいか。
 西のせいか。
 もう一度篠田を止める。
 「なんの裁判なんですかっ」
 「知らないんだ、誰も」
 「先生……辞めるの?」
 小声で尋ねた俺を笑う。
 「良かったじゃないか」
 思考が止まる。
 「望んでいたことだろう?」
 息が、出来ない。
 「瑞希!」
 「どした?」
 金原とアカが走って来た。
 篠田は俺の頭をポンと叩いて職員室に入って行ってしまった。
 残された。
 ふざけんな。
 あんたは説明していけよ。
 視線が定まらない。
 「みぃずき、なにがあった?」
 「また篠田に因縁つけられたのか」
 二人が顔を覗く。
 あぁ、表情が作れない。
 二人が強張る。
 動けない俺を引っ張って、部室に連れていく。
 授業は自習。
 サボってもバレない。
 でも、そんなことどうでもいい。

 バタン。
 部室の扉が閉まる音にハッとする。
 金原が肩を揺さぶっていた。
 「どうしたんだよ!」
 「あ……」
 アカは椅子に座って笑った。
 「喜ぶことじゃん、みぃずき」
 「喜ぶ?」
 「類沢がいなくなるんだよ? これでみぃずきの願いは叶うんだ」
 願い?
 俺の願いなの?
 類沢がいなくなんのが、俺の願い?
 金原がアカを睨む。
 「やっとだよ! 受験にだって集中できるんだしさ」
 「ちょっと黙れ、アカ」
 金原の声にキョトンとする。
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