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どこまでも玩具
第2章 荒らされた日常
 「……なにされた?」
 無言で廊下に出るや否や、金原が俺に耳打ちする。
 「いや、別に」
 ガシッ。
 アカが首に手を回す。
 その鮮やかな髪に見とれつつ、鋭い視線を受け止める。
 「金原も俺も一限サボってみぃずき探してた訳。そんな俺らに嘘つく気?」
 俺は震える脚を何とか支える。
 まだ二限が終わってないので、廊下には三人だけだ。
 「だから……何を疑って」
 「篠田になにされたわけ?」
 核心を突かれて言葉が詰まる。
 力を抜けば、座り込んで泣き叫んでしまいそうだ。
 アカがじっと濡れた目を見つめるものだから、恥ずかしくなる。
 「みぃずき、泣いてるよ」
 「……」
 「とりあえず、ここじゃあれだろ。部室行こうぜ」
 金原の提案で、三人は引退したバスケ部の部室に向かった。

 ガチャリ。
 鍵の隠し場は代々受け継がれてるようで、すぐに扉は開いた。
 北校舎の外れにあるため、体育の授業からも見つからない。
 薄暗い密室に入って、無意識に体が強張る。
 こいつらは、あの男達と違うのに。
 信頼できる仲間なのに。
 「お、冷蔵庫健在~。瑞希、ほらポカリ飲めよ」
 投げられたペットボトルを上手くキャッチする。
 冷たい。
 気持ちいい。
 アカも受け取り、すぐに飲み始める。
 「うめーな」
 「勝手に飲んでいいのかよ」
 「後輩のものは先輩のもの、ってな」
 俺は黙ってペットボトルを握り締める。
 何から言ったら良いんだろう。
 まずは、座らないと。
 俺の中で暴れるものを沈めないと。
 「なんか、変な音しねぇ?」
 気づかれる前に。
 「みぃずき、携帯鳴ってる?」
 悟られる前に。
 ぐらりと視界が揺れて、俺は片膝をついた。
 その反動で中のものが前立腺を擦り上げる。
 「ふッッ……ん」
 「瑞希?」
 しゃがみ込んで声を抑える。
 こんなこと知られる訳にはいかない。
 こんなこと現実じゃない。
 ブブブ。
 クチャ。
 「瑞希…」
 違う。
 そんな目で見るなよ金原。
 真っ赤なんだろな。
 今、俺の顔。
 ヴヴ。
 「わ、るいけどさ…一人にしてくん…ん…ねぇかな」
 ペットボトルを床に倒して、絞り出すように懇願する。
 そしたら、忌まわしいのを取り除けるからさ。
 普通に話せるからさ。
 事実から逃げれるからさ。
 「一人にはしないよ」
 アカが緩く頭を撫でた。
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