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どこまでも玩具
第11章 立たされた境地

 眠れない。
 さっきの話し合いのせいかな。
 ベッドに仰向けで、天井を凝視したまま眠れずにいた。
 類沢は裁判の資料を揃えるからとリビングに行った。
 西雅樹。
 その名前に拒否反応が出てしまう。
 俺は、彼のことをなんにも知らないのに。
 枕元から携帯を取り出す。
 その光る画面を見つめる。
 意味もなくネットを開いた。
 沢山の人の意見の大海。
 ―本日発売の書籍一覧を―
 ―あのアイドルも成功した―
 ―明日の教科なんだっけ―
 ―只今入った情報では―
 電子の声が、眠りを誘う。
 カラン。
 手から携帯が床に落ちた。
 拾いたいけど、ダメだ。
 「瑞希?」
 類沢の声にも応えられない。
 寝てしまおう。
 多分、夢でしか逢えない河南が急かしているんだ。
 きっと。

 真っ白な床にうつ伏せに寝ている。
 大理石かな。
 類沢の風呂の残像かもしれない。
 立ち上がって、ただ歩く。
 霞んでいた周りに次々物が現れてくる。
 机にベッド。
 あぁ、わかった。
 ここは類沢の寝室だ。
 そのうち一つだけ、小さなタンスが光り輝いている。
 惹かれるように近づく。
 「決まったの? 瑞希ちゃん」
 聞き慣れた声。
 「河南」
 そこには白いワンピースを着た河南が座っていた。
 ベッドに。
 浅く腰掛けるようにして。
 目を合わせると微笑んで、少しだけ首を傾けた。
 「決まったの?」
 また確かめる。
 「……まだ、かな」
 「早く決めなくちゃ」
 河南は髪をクルクルといじる。
 「そうだな。早く、決めなきゃ」
 じーっと俺を見つめてから、あのタンスを指差した。
 「決めるヒントが入ってるよ」
 指先を追って手をかける。
 滑らかな木。
 「開けて……いいのかな」
 振り返ると河南はいなかった。
 ただ、布団に残った跡が「瑞希ちゃんが決めることだよ」と言っているようだった。
 一番上の引出を開く。
 光に目を細める。
 シバシバする。
 それでも手を伸ばし、あるものに触れた。
 写真?
 三歩下がり、光が引いたところでそれに目を落とす。
 息が止まった。
 まさか。
 急いで引出に両手をかける。
 中を漁ると、硬いものに触れた。
 写真の残像が消えない。
 拳銃だ。
 「マジかよ…」
 決める時が来てる。
 その通りだ。
 この裁判が終わったら、二度と類沢に会えない。
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