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どこまでも玩具
第11章 立たされた境地
「もうすぐクリスマスだね」
ワインを注ぎながら類沢が言った。
すっかりその存在を忘れていた俺は、カレンダーを確認してしまう。
「……本当だ」
「瑞希たち受験生には関係ない?」
「まぁ……そうですね」
今日は23日。
イブイブだ。
毎年、母さんがツリーを飾ってくれていた。
今年は倉庫に仕舞ったままだ。
「類沢先生って飾り付けしないんですか?」
「持ってないよ」
意外だ。
彼女とかをサプライズで驚かせるのが似合うのに。
彼女。
自分で考えておいてモヤモヤする。
過去に何人いたんだろう。
この容姿だ。
二桁でもおかしくはない。
「クリスマスまで……」
類沢がワインを揺らす。
香りが此方まで漂ってくるようだ。
「ここにいない?」
「えっ」
俺はスプーンを落としてしまった。
聞き間違いかと思った。
「気になることがあるんだ」
「……え?」
期待は不安に変わった。
「西雅樹、ですか?」
「そうだね」
俺は紅茶を飲んで、気を落ち着かせる。
言った方が良いかもしれない。
そしたら、決断出来るだろう。
「俺、彼に裁判に一緒に出ないかって誘われたんです」
類沢の手が止まる。
ゆっくりとグラスから離れ、机に触れる。
「……何も話してはいないんですけど。あの時、類沢先生と一緒だったじゃないですか。それで、先生に脅されてるんじゃないかって」
「雅樹がそう言ったの?」
「はい」
類沢の眉に皺が寄る。
歯を噛み締めるように表情が強張って。
背筋が勝手に伸びるのを感じた。
今の類沢の前で、力を抜けない。
「雅樹が……そっか。意外に早かった……そうか」
独り言のように呟き、類沢はトントンと指で机を叩いた。
「先生?」
耐えかねて声をかける。
「先生は、西雅樹の学校にいたんですか?」
音が止む。
「そうだよ。雅樹は生徒だった」
二人の関係を尋ねたい。
その一歩が踏み出せない。
なんて答えが来るかわからない。
「雅樹は生徒だった」
類沢は確認するように再度呟いた。
いや、言い聞かせるように。
まるで、西雅樹という人間をそれで括ってしまいたいと云うように。
「返事はしたの?」
話題を逸らす。
「……いえ。連絡先も知らないし」
「そう」
短い言葉から感情は読み取れない。