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どこまでも玩具
第12章 晒された命

 ―雅先生、俺……先生のそばにいると心が休まらないんですよ―

 ―おやおや。いつの間にか嫌われてた?―

 ―そうじゃなくて!―

 ―僕は安まるけどね―

 ―はい?―

 ―お前は純粋過ぎるから―

 ―褒め言葉ですか、それ―

 ―好きに受け取りなよ―





 「類沢先生っ!」

 過去が一瞬にして消える。
 「な……んで」
 雅樹の手が揺れ、地に落ちる。
 力が抜けて、凶器が散らばった。
 ガタン。
 座り込んだ青年の腕に、鉄が食い込んでいる。
 「瑞希!」
 「あ……痛いですから……先生。これ、どうしたらいいんですか、ね」
 類沢は頭が白くなっていくのを感じた。
 腕だけじゃない。
 横から飛び込んで代わりに受けたんだろう。
 脇から斜めに、心臓に向かって突き刺さっている。
 「か、ん……覚無い、んで……わかんない…ですけど」
 手が痙攣している。
 薬が切れていなかったんだ。
 だが、今回はそれが幸いしたかもしれない。
 急いで携帯を取り出し救急車を呼び出す。
 雅樹は呆然としたまま、瑞希の前に立ち尽くした。
 その唇が「なんで」「どうして」を繰り返している。
 「瑞希、瑞希! 聞こえる?」
 力の無い目。
 瞬きすらせず、瞼が震える。
 「錆が入るとまずいから抜くよ? 大きく呼吸して。し続けて」
 「は……い」
 類沢は目を背けたい傷をしっかり見極めて、一気に引き抜いた。
 鼓膜を裂くような痛々しい音と悲鳴の後、瑞希は意識を失った。
 すぐに大きめのハンカチを巻き、キツく縛り付けた。
 血は止まらない。
 「雅樹!」
 ブツブツと呟いていた雅樹が、青ざめた顔で首を振る。
 「殺人犯になりたくなければ早くそのシーツ外して持って来い!」
 「え……あ」
 すぐにそれで上半身を締める。
 腕も同様に処理をしなければならない。
 いつも持ち歩いている包帯が今あればと思ってしまう。
 「それ、全部拾って」
 「え」
 「どっかに隠して、捕まらない言い訳を救急車が来るまでに考えておきなよ。庇う気はないし、間に合わなければ裁判に原告じゃなくて被告として立たせるから」
 涙を流す雅樹を置いて、一階に下りる。
 安静が一番だが、この狭い階段を担架で降ろす方が負担が大きい。
 「瑞希」
 瞑った目から思いは読み取れない。
 「会わせたい人がいるんだ。死なないで」
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