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どこまでも玩具
第12章 晒された命
 ピンポーン。
 弦宮は玄関を開けた。
 類沢だと思って。
 「こんばんは。類沢せん……」
 そこにいたのは女の子。
 可愛らしい包みを抱えて、満面の笑顔で。
 「あら。どうしたの、こんな夜遅くに」
 「あっ。え、と……類沢せんせはいらっしゃいますか」
 有紗は戸惑いながらも見たことのない女性に会釈する。
 まさか、妻?
 そんなはずはない。
 じゃあ、誰?
 「雅は今いないの。もうすぐ帰って来るから中で待っていたらどう? 寒かったでしょう」
 「良いんですか!」
 有紗は念願の家に入れる喜びに飛び上がった。
 そして頭の中で西雅樹に感謝する。
 宮内瑞希の家を教える代わりに、類沢せんせの家を教えてもらったのだ。
 だからこそ休みの朝早くに話を聞きに行った。
 「学園の生徒ね」
 「はい!」
 「雅はどんな教師?」
 有紗は少し怯んだ。
 名前で呼び合う仲。
 やっぱり恋愛対象なのか。
 その視線を汲み取った弦宮が笑う。
 「あらあら。違うわ。私はあなたのライバルにはならないわ」
 その笑みにつられて笑う。
 無邪気で、優しくて、寂しい笑みに。
 「類沢せんせは素敵でムチャクチャ格好良い先生です! 就任二カ月弱なのに、毎日女子に囲まれてて」
 「そう……」
 「あの髪型も最高に好きなんです! 白衣も凄く似合ってて、あんなにスタイル良い男性はいませんよね。バレンタインチョコは今から予約したんですよ。今日はクリスマスのプレゼントを……」
 涙がポロポロ流れる。
 あれ。
 どうして。
 せんせ。
 弦宮は黙ってハンカチを渡した。
 きっと、類沢の失いたくないものに彼女は入っていないんだろう。
 私も、か。
 滲む涙を拭く。
 有紗はわぁっと泣いた。
 せんせ。
 せんせ。
 どこにいるんですか。
 誰の隣にいるんですか。
 まだ何一つ断られた訳でもないのに泣けてきて。
 飾った体が妙に虚しく思えてきて。
 胸が空っぽになって。
 これ以上、好きを喋るのが苦しくなりました。
 咽ぶ。
 叫ぶ。
 せんせ。
 私は本気でした。
 大本気でした。
 私は貴方を愛してました。
 でも、気づいてしまったんです。
 私の末路を。
 きっと貴方は選ばない。
 西雅樹を選ばなかったように。
 彼が貴方に殺意を抱いたように、私もいつかは狂うのでしょう。
 そう思うと、随分空っぽで。
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