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どこまでも玩具
第13章 どこまでも
 「食後は紅茶で良かったですか」
 「ん。本当に料理人みたいに完璧ねー、雅」
 類沢は紅茶を渡しながら、控えめに礼を言う。
 「機嫌は直りました?」
 弦宮は両手でカップを包み、長い髪に表情を隠した。
 「あんなの初めてよ……裁判なのに誰も来ないなんて」
 「僕は雅樹に勝たせてあげるつもりだったんですが」
 「その西雅樹はどこに行ってたのかしらね」
 意味ありげに寝室に目を向ける。
 トコトコと足音がして、青年が現れた。
 ボサボサの髪で目を擦りながら。
 それでも、血色の良い顔立ちからは見えない強さが窺える。
 「あ。おはようございます」
 「おはよう」
 「おはよ、雅樹くん」
 雅樹は半分夢にいるのか、テーブルについても腕の中に沈んだ。
 「雅先生、久しぶりですね」
 「あら。そうなの?」
 「病室に寝泊まりしてましたから」
 「まだ……戻らないのね」
 キッチンのカウンターにもたれる。
 疲れが限界に近づいていた。
 そろそろ自分も過労で病院送りだと思い、帰って来ることにしたのだ。
 瑞希の隣で眠るのも悪くないんだけど。
 ちょうど弦宮から電話が入った。
 生きろと云うように。
 「瑞希くんが帰ったら、今度は有紗ちゃんも呼んで食事会にしましょうよ。私だって料理を食べさせたいもの」
 「いいですね」
 弦宮が寝息を立てる青年を眺める。
 「この子、家は大丈夫なの?」
 「一昨年でしたか……双子の妹を学校から迎える車が居眠り運転のトラックにぶつかって……両親も、妹も亡くしたんです」
 「家族、全員?」
 「そうなりますね」
 喧嘩する度、保健室にわざわざ話に来たのは、他に話す人がいなかったから。
 そうまとめると、随分乾いてる。
 「あ……あは。涙出て来ちゃった。みっともないわねー大人なのに」
 ハンカチを目に当てる弦宮は、やはりみんなの母だった。
 感情移入し、涙を流してくれる。
 僕が彼女の心を持っていたなら……意味もないことを考える。
 何か変わってたとでも言うつもり?
 「麻那さん、今回の場合、裁判所はどう処分をつけるんでしょう」
 知っているが、訊く。
 「どちらも手は出せないわ。裁判なんてなかったんだもの」
 「そうですか」
 「でも、あれね」
 弦宮が紅茶を一口飲み、優しく置いた。
 「これが一番良かったのかもしれないわね」
 「裁判は、ですね」
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