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どこまでも玩具
第13章 どこまでも
病室には先客がいた。
随分遅かったな。
少女が泣きはらした顔を上げる。
「あ……こんにちは」
「はじめまして、美里さん」
病院が連絡を取ったようだ。
祖父母も一緒にいたが、さっきすれ違った。
一人にさせたかったんだろう。
水色のセーターの袖で目を擦る。
「えっと」
「類沢と申します」
「類沢先生……」
時間が途絶えた。
さすがは兄妹だ。
瑞希に呼ばれた気がした。
三週間ぶりに。
あれからクリスマスが過ぎ、大晦日が過ぎ、正月が過ぎていった。
年末年始の全ての行事が感じられなかった。
多分、目の前の少女も同じはず。
近親の不在はそういうことだ。
「兄がお世話になりまして」
「お礼は必要ないよ。僕のせいでこうなったようなものだ」
「そんなことありません」
美里が語気を強める。
コートを脱ぎ、近くの机に置く間、彼女は真剣な眼で瑞希を見ていた。
「だって……だって類沢先生はお兄ちゃんのそばにずっといて下さったんですから」
否定の言葉を飲み込んだ。
きっと、彼女なりに考えて悩んだことがある。
簡単に口を挟んでまとめてはいけないことが。
「一つ訊いていいかな」
「はい?」
「なんで出て行ったの?」
美里は歯を食いしばり、兄の顔を見つめた。
「言いたくないなら構わない」
「怖くなったんだと思います」
しばらくの沈黙。
「……母と父を失って、家の中を歩いて見ていたら、家族って存在が余りに脆く思えたんです。そしたら、急に怖くなって、兄の部屋に行ったんですよ。その時……お兄ちゃんは……」
場面を鮮明に浮かべているのか、表情が強張る。
「お兄ちゃんは、私と全然違ったんです。ママとパパがいなくなったのはもう受け入れるしかない、これからを考えなきゃって。もう……過去にしようとしてて。私にはまだそんな決心つかなくて、信じられなくて、裏切られた気がして……」
涙を拭い、それでも告白を続ける。
「そしたらもう、一緒にいられなくなったんです。気づいたら家を出ていて……何も言わずに出ていて。兄には酷い電話もしちゃって……馬鹿みたいですよね。類沢先生だって色んな生徒を見てきたんでしょう。私みたいな薄情な妹どこにもいませんよ」
「どこが薄情なの?」
「え?」
類沢はにこりと笑って、美里の向かいに座った。