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どこまでも玩具
第13章 どこまでも
雛谷は何か言いかけて飲み込んだ。
自分も居させてくれなど傲慢。
今度は類沢を一人にさせる番だと感じ取った。
駅に降ろされ、無言を貫く類沢を一瞥する。
目が合った時、寒気が走った。
そこには、純粋な感情が渦巻いていたから。
冷静沈着で感情を滅多に表さないからこそ、こうした一瞬は神経をざわつかせる迫力がある。
冬の冷気ではない冷たさに身が凍えた。
車を見送り、雛谷は歩き出した。
ここからなら家は近い。
歩く位が今は丁度良かった。
明日の朝、瑞希はどうなっているんだろうか。
そればかりが頭を占めた。
雛谷を降ろした後、病院まで飛ばした。
今ならパトカーからでも逃れきれる自信があった。
煙草をくわえる。
煙を脳に満たし、冷静になりたかった。
だが、出来ない。
体温は下がらない。
心拍数は小さくならない。
ただただ病室を目指す。
医師達が走って行くのとすれ違った。
瑞希だけじゃない。
死線をさ迷う人が、ここには何人もいる。
瑞希の横に座り、その髪を優しく撫でる。
何回こうしただろう。
初めて会った時、気を失った瑞希にも同じことをした。
覚えていないはずだ。
自分自身今まで忘れていた。
あの時から、既に予感はしていたのかもしれない。
遊びじゃないと。
それで終わらせたい心はいつ負けたのか。
耳に触れる。
髪をそっと掻き上げ、首筋に指を這わせる。
もう、自分が付けた痕は全て消えていた。
消えた。
今の瑞希は、会った当時の瑞希に戻ってしまったのかもしれない。
全ての時間が消え失せて。
その証拠すら無くして。
手を握る。
骨が感じられる。
押さえつけたりもした手。
今は護りたい。
「帰っておいで。自力で」
握り返して来ない手を両手で包む。
もうすぐ消灯だ。
椅子を壁際に寄せ、座り直す。
壁にもたれ、脚を組む。
携帯が震えた。
無意識に舌打ちが出たのに驚き、それから病室を出た。
廊下の端の休憩室に入る。
誰もいない。
「……もしもし?」
「せん、せ……今どこ」
仁野有紗。
「病院だよ。だから切るよ」
「待って! 待ってよ……やっと言えるの。聞いてくださ……い」
類沢は窓の前に立ち止まった。
満月が沈む。