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どこまでも玩具
第3章 枯らされた友情
「ただいま」
「あら、随分早かったじゃない圭吾」
オレは手すりに寄りかかるようにして階段を上がる。
入れ替わるように、お洒落をした母さんが靴を履く。
「そうだ、電話来てたわよ」
ビクッ。
背中が固まる。
まさか、と思いつつ「誰?」と返す。
る、の文字が聞こえたら無視しようと考えながら。
「仁野有紗ちゃんからよ」
全身の力が抜ける。
同時に違う緊張が沸いてくる。
「……有紗が?」
母さんはそれ以上何も言わずに玄関を出て行った。
あの口紅からして男に会いにいくんだろう。
父さんが出て行ってから、男遊びが激しくなった。
別に再婚は構わないが、家に呼び込むのだけは止めてほしい。
明かりを点けてベッドに倒れ込む。
肺が潰れる位息を吐いた。
今日は疲れた。
なにがって、紅乃木の態度だ。
何度か話しかけようとしたが、決まって邪魔が入るか避けられたのだ。
勿論、文句を言いたい訳じゃない。
あいつのせいじゃない。
悪いのはただ一人だ。
だけど、どこかでもう紅乃木との友情を切りたい自分がいる。
やはり、助けに来てほしかった。
なんで逃げたのか訊きたい。
でも、そんなのどうにもならない。
オレは自分の意志で行動したんだ。
紅乃木に負い目はない。
寝たままで腰に巻いたコルセットを外す。
部活の時のを残してて良かった。
昨晩は夜中に何度も痛みで目が覚めたのだ。
腰の激痛に耐えきれず、締め付けるようにコルセットで固定した。
瑞希は大丈夫だろうか。
いらぬ世話か、とすぐ思い直した。
自分で思っていたより精神的なダメージは少ない。麻痺してる。
あれから泣くこともなく、ただ風呂で処理を済ました。
全てが機械的で。
全てが無感情で。
二度と無いことだけが望みだ。
しかし、類沢が撮っていた写真はこれから響くのだろう。
糞面倒な状況だ。
寝返りを打ち、仰向けになる。
「いまさら有紗が何の用だよ……」
突然の新たな悩みが頭を埋める。
―馬鹿! 私がいなくなってから苦しんじゃえばいいんだ!―
あんな捨て台詞を吐いておいて今更。
正直縁は切れたと思っていた。
今は新たな彼女もいる。
有紗は何でもない"元カノ"という肩書きを抱いた他人。
「あ――…」
また痛みがぶり返してきて、コルセットをつまみ上げた。