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どこまでも玩具
第4章 放たれた憎悪
 「バカじゃないの」
 「ありえないんですけど」
 「ていうかさー、そんなん信じると思う?」
 最悪な授業が終わって廊下に出ると、三組の方が騒がしい。
 後ろの扉の前で一人の女子が囲まれている。
 「どした、瑞希」
 「金原……あれって」
 「あれ?」
 俺が指差した方を見て、金原の眉間に皺が走った。
 通り過ぎる女子複数に罵詈雑言を浴びせられ、居心地悪そうに居すくまる影。
 「……有紗」
 金原が足を踏み出そうとして、ぐっと留まる。
 「なにしてんだよ、行けよ?」
 俺が肩を叩くと、彼は泣きそうな顔で笑った。
 それ以上言葉が続かない。
 「オレたち」
 教室に戻ろうとして、振り返る。
 「別れたんだ」

 仁野と金原は中学からの仲だった。
 中学二年で既にヤったと噂になっていた程だ。
 おしとやかの部類には属さない仁野も、その噂を肯定していた。
 金原の家に行って、彼女とはち合わせたこともある。
 そのときも、「私がお邪魔?」と気高く笑って出て行ったものだ。
 始業式に金原が話してたのも、てっきり仁野のことだと思っていた。
 いつ別れたんだろう。
 他人の恋愛を心配してる暇があったら、自分の身を案じたら?
 そんな類沢の言葉が聞こえてきそうだ。
 確かに、考えてる場合じゃない。
 しかし、何故か一日中仁野と金原の苦しい顔が浮かんでいた。

 放課後になり、足早に玄関に向かう途中であの二人を見つけた。
 偶然とは言え、修羅場を覗いてしまった罪悪感に立ち去ろうとする。
 「だから、放っといてよ!」
 「一体何言いふらして敵作ってんのか訊いてんだろ」
 片腕を掴まれ、仁野は恐ろしい気迫で金原を睨む。
 「……あんただって嘘って言うくせに。く……そ……あいつに騙された」
 「あいつ?」
 食い下がる彼に仁野は叫び返した。
 「あの保健教師が同性愛者だって言ってんの!」
 空気が止まる。
 何もかもが固まっている。
 金原は目を見開いたまま。
 俺は靴を取り出したまま。
 周りの生徒は怪訝そうに二人を見つめたままに。
 頭の中はグツグツ新たな疑念をごちゃ混ぜに煮詰めてる。
 まさか。

 ……仁野にバラしやがった?

 いや、すぐに俺は否定する。
 だったら金原に対しても何か云われたはずだ。
 コレクションのように扱う類沢なら、自分の手駒の数など喜んで喋るだろうから。
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