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どこまでも玩具
第4章 放たれた憎悪
 ジリリリ……
 目覚ましが鳴っている。
 ジリリ
 まだ鳴っている。
 俺はベッドに仰向けになったまま、ただその音を聞いた。
 紅乃木との会話を整理しながら。
 紅乃木は計画を先延ばした。
 なんとか引き止めたのだ。
 それは違う。
 寝返りを打つ。
 目覚ましが諦めるように止まった。
 紅乃木はタイミングを見てるだけだ。
 きっと、彼は俺の、金原の復讐のためだけに動いてるんじゃない。
 より惨く。
 より長く。
 相手を苦しめて過去を拭い去る気だ。
 今までどうして、この不安定さを見落としていたんだろう。
 金原が別れたことも知らなかった。
 なんだかな……
 もう一度仰向けになる。
 朝日を浴びた天井が、眩しい。
 タンスの上の黒いビニール袋が目に入る。
 類沢に叩き返してやろうと置いてある玩具たちだ。
 母が届かぬ位置だから、見つかる心配はない。
 あそこなら、俺が変な気を起こす心配もない。
 「瑞希ー、朝ご飯よ! ほら美里、お兄ちゃん起こしてきてあげて」
 「ええ~……瑞希寝起き悪いんだもん。やだ」
 「瑞希じゃないでしょ、お兄ちゃん」
 「オニイチャ~ン、朝だよー!」
 癒される。
 この日常が、今は大切で仕方がない。
 
 「聞こえてるよ」
 階段を降りれば、妹がわざと肩をぶつけてきて、にやりと笑った。
 「ほら、オニイチャンはいつも寝ぼけてる」
 制服で勢い良く玄関を飛び出す美里は、陸上部だ。
 今は冬の大会に向けて練習も激しくなっているらしい。
 「瑞希、ご飯冷めちゃうわよ」
 「おはよ、お母さん」
 「最近顔色悪いわね。ちゃんと寝てる? 携帯ばっかいじってちゃ駄目よ。受験生なんだから」
 「はいはい」
 わかってるよ。
 お母さん。

 学校に着いても、中々足を踏み出せない。
 今日という日が、もっとずっと後なら良かったのに。
 「おはよう宮内」
 「おはようございます」
 「どした、そんなとこで」
 羽生三兄弟。
 上から、一夜、千夏、三嗣。
 いちにさん。
 「いや、別に」
 「先輩がアンニュイなとこ初めて見ましたよ」
 三嗣はバスケの後輩だった。
 「じゃ、千夏がとっておきのギャグで元気出させてあげな」
 「木彫りの熊には大規模すぎたか、ってやめろ一夜」
 「はは、笑えない」
 「宮内ー!」

 こんな平和な風景が、俺は少し怖くなった。
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