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どこまでも玩具
第5章 明かされた記憶
 おいおい。
 この女イっちゃってないか。
 紅乃木は苦笑いしながらナイフを回した。
 「宮内と圭吾とセンセの問題じゃないの?」
 「バカだな、お前」
 有紗の顔が歪む。
 叩かれた場所が痛いのか、片手は頭に当てたままだ。
 殴った訳でもないのに。
 大げさな。
 「それもそうだね」
 気づけば類沢が有紗の背後にいた。
 その細い肩に手を回し、彼女の頬にキスをする。
 「ひゃっ」
 「ほら、有紗が喜ぶなら解決になるだろ? 紅乃木哲の出番はないわけ」
 怒りじゃない。
 苛立ちじゃない。
 そんな生ぬるい感情じゃない。
 紅乃木は自分の芯から熱くなるのを感じた。
 「……す」
 「なに?」
 ナイフが類沢の目の前に現れる。
 有紗を横に突き飛ばし、彼は大きく後ろに下がった。
 すんでのところでナイフはかする。
 すぐに持ち替え、紅乃木はそれを振るった。
 「あはははは」
 始終笑い声が上がる。
 自分のじゃない。
 この養護教諭のだ。
 有紗はそろそろと隅に移動する。
 歯が震えていた。
 恐怖に。
 「教師を殺して、その後どうするの」
 自分の死後を、よく笑顔で聞けるものだ。
 類沢は机に腰掛けて紅乃木を眺めた。
 「死体遺棄すら出来ない学生がさ、どうするの?」
 「考えてねぇよ」
 その言葉を呆れ声で弾き返す。
 「お前が刑務所入りして瑞希は幸せになれるのかな」
 「幸せなんて言葉使うんじゃねえよっ! 瑞希の幸せ一番壊してんのは誰だ」
 「……僕かな」
 向かって来たナイフが机に刺さる。
 「あぶないあぶない」
 「避けんなっ」
 「無茶言う」
 有紗は立てないまま様子を窺っていた。
 今口出ししたら大変なことになりそうだ。
 「結局はさ、何が望みなの?」
 しばらくもつれ合いが続いた後、類沢が穏やかに尋ねた。
 「はあ?」
 「だから、何が望み?」
 「てめぇを殺すことだよ」
 「……」
 類沢は目線を床に落とし、頭を掻く。
 ガリガリと。
 それから、哀れなものを見る目で紅乃木を睨みつけた。
 「やっぱり殺人鬼だ、お前は」

 有紗は全力で廊下を駆け抜ける。
 階段を上がり、教室を探す。
 チャイムと同時に飛び込んで、男を引っ張り出した。
 「なに? いきなり」
 「あんたじゃなきゃ止めらんないのよ!」
 「なにが?」
 だが、瑞希も察しがついていた。
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