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どこまでも玩具
第5章 明かされた記憶
父が嫌い。
父が嫌い。
酒を飲む父が嫌い。
煙草を吸う口が嫌い。
なにより、そばに寄るのが嫌い。
初めてこんな感情が沸いたのは、小学五年の時だった。
キャッチボールなんて可愛い思い出もない自分にとって、父は忙しい男という印象のみだった。
たまに帰ってきて夕飯を共にする男だった。
「哲、まだ寝てないのか」
テレビゲームに興味を示し始めた年代。遅くまで起きるのも普通だった。
しかし、父が無表情で言うので電源を切るしかなかった。
それから父は、部屋に入ってきて目の前に仁王立ちした。
なにをされるかわからなくて、ただ怖くて謝った。
「ごめんなさい」
「…」
影は無言のまま。
母は友人と泊まりに行った。
よくあることだし、出前も慣れたもんだった。
「ごめんなさ」
言い切る前に殴られた。
ベッドの端に頭を打つ。
ガンガンする。
記憶が曖昧で、なんで父がいるのかもわからなくなった。
また手を振りかぶる彼の横から逃げようと足を踏み出す。
だが、くらりとよろめいて、そのまま床に倒れた。
その足を掴まれる。
ぞわり。
恐怖が爪先から背中に上る。
「やだ、やだ」
全力で足を振っても手は離れない。
父の顔が蛍光灯の陰になってよく見えないのも怖かった。
「……哲」
ゆっくり名前を呼ばれる。
「哲」
返事をしたくても口がからからだった。
パクパクとしていると、父が顔を近づけて唇を重ねた。
いや、舐めた。
ヌルリとした舌が、唇をなぞった。
気持ち悪い。
また往復するように舐められる。
気持ち悪い。
「はあ……ッ……哲」
父の息が荒くなる。
頭に手を添えると、逃がさないというように固定して口の中に舌を入れてきた。
「んんん! んぐ……」
どんなに抵抗したって適うわけがない。
小さな手で殴ったって、腹に一発いれられれば力も入らない。
ぐちゅぐちゅ。
その音はよく覚えてる。
十分以上、父は咥内を楽しんだ。
涙が流れたって、なにも変わらない。
顎に唾液が伝っても、拭くことすらできない。
目をギュッと瞑って、父が笑って冗談だって言ってくれるのを待った。
冗談だって。
だって、キスは好きな女の子とするものだから。
わかってて、からかってるだけだって。