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どこまでも玩具
第7章 阻まれた関係

 ドアに手をかけ、扉の向こうの会話に耳を済ます。
 「……ちゃんとパクってきたかよ?」
 「当たりめぇだろ。ほら、感謝しろよ」
 「またビールかよ」
 「はは、今日もあいついねぇかな」
 「ああ、宮内だっけ?」
 「あれは楽しかったよな」
 「写真も撮ったし、今から呼んでみるか?」
 「ひでー」
 「鬼畜キタ。なになに、携番押さえたの? 頭いいー」
 そこで扉を開いた。
 三人の男子がこちらを向く。
 酒を隠す者はいなかった。
 図太い奴らだ。
 「なんすか」
 「新人の類沢先生じゃないすか」
 「先生も飲みます?」
 下卑た笑いを無視し、彼らに近づく。
 カツカツ。
 白衣が風に舞う。
 「君たちだよね?」
 沈黙を味わう。
 「瑞希を遊んでくれたのは」

 否定する。
 ごまかして笑う。
 そんなことをすれば、この場で屋上から突き落としてやるつもりだった。
 しかし、予想通り、彼らは笑って肯定した。
 「なんで知ってるんすか?」
 「カウンセリングでも受けたんじゃねーの?」
 「はは、そういうことか」
 盛り上がる彼らの前に立ち、口を開く。
 「あの倉庫に、今日も人がいるよ」
 黙る男子達をせせら笑う。
 「瑞希じゃないけど」
 
 それから後は、見る必要は無かった。
 屋上から去り、しばらく階段に立ち尽くす。
 後ろから騒ぎが聞こえたのはすぐだった。
 これだから、馬鹿は扱いやすい。
 暴れる音。
 叫ぶ声。
 服を破る音。
 ライターを手の中で回す。
 煙草は取り出さなかった。
 「足押さえろ! ほらほら、暴れんなよヒナヤン先生?」
 「やべぇ、コイツ気持ちいいんだけど」
 「……ひぐッッ……やめ」
 自然と口が笑う。
 思い切り乱暴にすればいい。
 雛谷が使ったような媚薬なんてない。
 痛みはそのまま感じるだろう。
 卑劣な手で瑞希を弄んだ分にしては、足りなすぎる代償だ。
 階段を下りる。
 足音が妙に耳に障る。

 家に着くと、瑞希がソファーに体育座りをしていた。
 「休めた?」
 「……はい」
 コートを脱ぎ、クローゼットにしまう。
 「あの」
 「ナニ?」
 間が空く。
 「ありがとう、ございました」
 息が一瞬止まった。
 じっと自分を見つめる瑞希。
 その言葉が本心からのものだと、確かに物語っている。
 「……どう致しまして」

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