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黒椿人形館
第1章 黒椿館
1.黒椿館
(1)
朝倉しのめは、木下真菜と全く違うタイプの女子だ。
しのめは利発で大学の成績も優秀だがそれを鼻にかける様子もなく、いつも凛とした雰囲気をまとっていて、無口ではないが必要以上に口を開かない。和風美人とでも言うのだろう、切れ長でありながら瞳のくっきり分かる美しい目に、常にきゅっと結んだ唇、筋の通った鼻に艶やかで長い黒髪。真菜の肌も白い方だが、しのめの透き通るような肌を見た時はあまりの美しさに息を飲んでしまった。雪国育ちゆえに、産まれた時からこれまでの雪の白さを全部肌に取り込んだのではと思うほどだった。姿勢も良く、なんといっても体のラインが完璧だ。その上でどんな洋服でも嫌味なくさらりと着こなしてみせる。洋服だけでなく着物も一人で着られるらしい。
ひとことで言えば、品が良いのだ。
真菜も、子供の頃から『可愛い』と言われ、これまで男子からも少なからず好意を寄せられ、それなりに女子としての魅力を持っていることは自覚していた。
でも、しのめにはかなわないと思う。
真菜は大きな愛らしい目とは言われるが、しのめの瞳が持つような色気があるとは思えない。頬も少しふっくらしているし、やや厚めの唇もコンプレックスだった。セミロングの黒髪も綺麗なストレートだが、しのめの涼風のような髪と並ぶと見劣りしてしまう。彼女のように凛とした空気感は放つことなどできず、本当に同級生だろうかと思うほど自分が幼く見える。
それでもお互い『しのちゃん』『マナ』と呼び合う仲だ。
二人はなぜか気が合った。
なんでも話せる親友だった。
しのめは真菜のどんな悩みでも親身に耳を傾けて、的確に応えてくれた。
耳障りの良いことだけを言うのではなく、反対すべきときは反対もするし、真菜の悪いところもさとしてくれた。
真菜はしのめを尊敬していた。同時にそのしのめが親友であることを誇りに思っていた。
しのめは、人前では見せたことのない笑顔を真菜にだけは見せてくれる。
それが真菜には嬉しかった。
真菜にとって、しのめはかけがえのない大事な友人だ。きわめて大きな存在であり、心の支えでもあった。
――あたし、しのちゃんを愛してるんじゃないだろうか。
そう思うほどだった。
そのしのめが、ひと月前からこつ然と姿を消した。