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キスの花束を
第8章 11年後
―――11年後

「紗江子さん、ただいま」
「ツカサ、お帰り~」

6年前。ツカサと私はツカサの就職とともに籍を入れた。

「チリはどうだった?」
「まぁいつもの買い付けだからな。今年も良いワインが輸入できそうだよ」
「良かったね」

ツカサは私たちと同じ会社に就職した。
兄である啓の縁故なしに難なく入社した。

「今日は?社内報のインタビューだったんでしょ?」
「うん。海外出張を減らしてくれって訴えてきた」
「何それ。社内報で?」

ツカサの子供じみたインタビューにクスクス笑いながら
持ち帰った味見用のワインを開けた。

「改めて。お帰り」
「ただいま」

カチャンと小さくグラスを合わせて一口飲む。
「うん。今年も美味しい」

私たちは結婚している事を会社には秘密にしている。

厳密に言うと人事のシークレット扱にしてもらってる。

「俺、そろそろ紗江子さんの事公表したい」

近頃、海外出張から帰ってくると
ツカサはこの事ばかり言うようになった。

「俺海外ばかりで紗江子さんと離れててすげぇ不安なんだけど」
「結婚してるのに?でも公表したらどっちかが転勤かやめなきゃ」
「だよな。紗江子さんのキャリアは大事にしたい。
新田常務も紗江子さんを手放さないだろうし」
「ん。ありがとう」

私たちの会社は総合職同士の夫婦で同じ職場はいまだにいい顔をしない。

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