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ブルームーン・シンドローム
第1章 ブルームーン・シンドローム
「……ふ」
一瞬だけ触れた蒼の唇は、思いのほか柔らかかった。
暁人はおののき、華奢な体を押し返した。
間近に蒼の顔がある。黒に見えていた彼の双眸は、ほんの少しだけ青みがかった不思議な色をしていた。そしてわずかに、何か翳りのようなものが垣間見えた気がした。
「……嫌ですか?」
その目が憂いを帯びて、細められる。
――わからない。
暁人は自分の気持ちに酷く狼狽した。
わからない? そんな馬鹿な。こんなこと嫌に決まっている。
蒼は同性のクラスメイトだ。友達ですらない。今日まで行動を共にすることはなかったし、要件以外の話すらまともにしたことがなかった相手。そんな相手と、どうして今、自分がこんな場所でこんなことをしているのか。
暁人は蒼の、不思議な色の瞳を見つめた。
なら、彼が異性ならばいいのだろうか。それも違う。自分は、誰とでも気安く寝るような質(たち)の男ではない。……わからない。
暁人は焦燥に、きつく唇を噛みしめた。
拒否することも受け入れることもできず、ただ長い沈黙だけが室内を満たす。
もう一度キスされた。口内に舌を送りこまれ、その心地良さに目眩がしそうだ。