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Deep Emotion
第3章 弟
「とりあえず、藤澤さんは部屋に荷物を置いてきたら?陽、奥の部屋に案内してあげて」

門倉さんがそう言うと、陽さんが頷いて私のキャリーバッグを持った。

「え」

「重いでしょ。持つからあんたはついて来て」

有無を言わせぬ口調で、陽さんがリビングを出て進み始めたので私もその後を追った。

案内された部屋にキャリーバッグを置いてもらうと、陽さんが私の方を向いた。

「ここがあんたの部屋。好きに使って」

「ありがとうございます。えっと、陽さん」

お礼を言うと、陽さんは困ったような顔をした。

なんか、まずいこと言ったかな…。

「…あんたハタチくらい?俺、今年で21なんだけど、年がそんなに変わらないなら、俺のこと、陽さんなんて呼ばなくていいよ。なんか、慣れなくてくすぐったい感じするから、さん付け以外で好きに呼んで」

「あ、同い年なんですね」

「…同い年?なら、俺には敬語もいいよ。自分が喋りやすい話し方で話しなよ」

「…じゃあ、…陽くんって呼んでいい?」

私が訊くと、陽くんはうん、と微笑んだ。



ハウスキーパーの初仕事は買い物だった。

時間も時間だったので夕食を作ろうと冷蔵庫を覗いてみれば、牛乳とジャム、それから缶ビールとパックジュースの残りしかなかったのだ。

門倉さんからスーパーの場所を教えてもらい買い物を済ませ、マンションに戻る。

預かった鍵をエントランスに置かれた銀色の台のセンサーにかざしてロビーに入り、エレベーターに乗った。

…何、作ろうかな。

施設でも、ご飯を作るのを手伝うのが大好きだった。

皆がおいしいって言ってくれるのが嬉しかった。

会社の寮で自炊はしていたけど、ネットカフェ生活になってからは外食ばっかりだったから、今日は久々にご飯を作る。

そんなことを考えている間にエレベーターが31階に着き、ドアが開いた。
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