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Deep Emotion
第2章 始まりの予感
「失礼いたします。お掃除に入らせていただきます」
『企画課』と彫られたプレートの掛かったフロアに入り、私は清掃を始めた。
清掃会社でのバイトを始めて2ヶ月。私が担当するのは、今人気のゲームを開発している企業のビル。
ぴしっとしたスーツを着こなした人達が働いている光景に、初めは何だか落ち着かなかったけど、最近は慣れてきた。
「ありがとうございました」
清掃を終え、私は出入り口で頭を下げる。返事はない。近くを通った社員が軽く会釈したくらいだ。
いつものことなので、気にしない。皆忙しいのだから、いちいち清掃スタッフになんて構っていられないのだ。
フロアを出て、次の清掃場所に向かう。次は1つ下の階だ。
「あの、君。清掃の…」
突然、背後から声をかけられた。
振り向くと、ひとりの男性が立っていた。いや、ひとりではない。少し後ろの方に、綺麗な女性もいた。
「えっと、私ですか?」
清掃の、と言われて振り向いたが、一応確認する。
男性は優しく笑って「そうです」と答えた。
私より年上には見えるけど、いくつなんだろう。30歳くらいかな。
「いつも清掃しているのは君なのかな」
「あ、清掃スタッフは私以外にもいます。この階とか、1つ下の階は私の担当ですけど」
「ああ、そうなんだ。いや、いつも丁寧に清掃してくれているし、挨拶とかもしっかりしているから、お礼を言いたくて」
「や、仕事なので。…じゃあ失礼します」
私がその場を去ろうとすると、男性がなおも声をかけてきた。
「待って、君、名前は」
「え。藤澤澪…ですけど…」
何、この人。何で名前訊くの?
「俺、…あ、私は門倉明(かどくら・あきら)です」
男性、門倉さんは私に名刺を渡した。
「どうも…」
私はロクに名刺も見ず、作業着のポケットに入れた。
「じゃあ、これで」
今度こそ私はその場を立ち去った。
*
「えっ!?」
終業後、名刺を改めて見て、私は目を剥いた。
そこには『Kクリエイト代表取締役 門倉明』と印刷されていた。
『Kクリエイト』はさっきまで清掃をしていた会社だ。
そこの代表取締役ということは…。
「あの人、社長…?」
私は名刺を持ったまま、呆然とした。
どうしよう。言葉遣いとか態度大丈夫だったかな。明日にはクビとか言われないかな。
『企画課』と彫られたプレートの掛かったフロアに入り、私は清掃を始めた。
清掃会社でのバイトを始めて2ヶ月。私が担当するのは、今人気のゲームを開発している企業のビル。
ぴしっとしたスーツを着こなした人達が働いている光景に、初めは何だか落ち着かなかったけど、最近は慣れてきた。
「ありがとうございました」
清掃を終え、私は出入り口で頭を下げる。返事はない。近くを通った社員が軽く会釈したくらいだ。
いつものことなので、気にしない。皆忙しいのだから、いちいち清掃スタッフになんて構っていられないのだ。
フロアを出て、次の清掃場所に向かう。次は1つ下の階だ。
「あの、君。清掃の…」
突然、背後から声をかけられた。
振り向くと、ひとりの男性が立っていた。いや、ひとりではない。少し後ろの方に、綺麗な女性もいた。
「えっと、私ですか?」
清掃の、と言われて振り向いたが、一応確認する。
男性は優しく笑って「そうです」と答えた。
私より年上には見えるけど、いくつなんだろう。30歳くらいかな。
「いつも清掃しているのは君なのかな」
「あ、清掃スタッフは私以外にもいます。この階とか、1つ下の階は私の担当ですけど」
「ああ、そうなんだ。いや、いつも丁寧に清掃してくれているし、挨拶とかもしっかりしているから、お礼を言いたくて」
「や、仕事なので。…じゃあ失礼します」
私がその場を去ろうとすると、男性がなおも声をかけてきた。
「待って、君、名前は」
「え。藤澤澪…ですけど…」
何、この人。何で名前訊くの?
「俺、…あ、私は門倉明(かどくら・あきら)です」
男性、門倉さんは私に名刺を渡した。
「どうも…」
私はロクに名刺も見ず、作業着のポケットに入れた。
「じゃあ、これで」
今度こそ私はその場を立ち去った。
*
「えっ!?」
終業後、名刺を改めて見て、私は目を剥いた。
そこには『Kクリエイト代表取締役 門倉明』と印刷されていた。
『Kクリエイト』はさっきまで清掃をしていた会社だ。
そこの代表取締役ということは…。
「あの人、社長…?」
私は名刺を持ったまま、呆然とした。
どうしよう。言葉遣いとか態度大丈夫だったかな。明日にはクビとか言われないかな。