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隠匿の令嬢
第6章 恥じらう乙女と卑猥な遊戯


 ──少女が哭〈ナ〉いていた。


 淡いキャラメル色の髪を振り乱し、二の腕まで覆う手袋をした両手に顔を埋め。


 哭き声がふと止む。


『……お姉様のせいよ』


 細い肢体の少女から想像もつかないほど、底冷えのする声で唸る。


 両手の指の隙間から覗く涙に濡れたオリーブグリーンの双眸に憤怒と憎悪が滾っている。


『お姉様のせいで私は……』


 ──ごめんなさい、ごめんなさい……。


 崖の淵に追い詰められ、酷く怯えた様子の彼女は同じ言葉を繰り返す。しかしその声は耳に届かず、唇が動くのみ。


『どうして私がこんな目に遇わなきゃならないの?』


 じりり、じりりと少女は詰め寄る。愛くるしい顔を狂気に染め。


 ──ごめんなさい、ごめんなさい。


 彼女の言葉は尚も届かない。後ずさる彼女の踵は崖からはみ出し、もうあとがない。


『謝ったって赦さない。絶対に……絶対に赦さないから!!』


 見開く少女の顔が見えなくなる。全てを埋め尽くす黒に染まり、その黒はアリエッタを呑み込もうと猛威をふるった。


 ──ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。


 少女の黒に逆らうことなく呑み込まれ。同じ色に染まった彼女の身体は宙を舞い、崖の底へと落ちていった。






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