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隠匿の令嬢
第8章 忍び寄る影



「こちらでの生活を随分と愉しまれているようですね?」


 ──コツン。また一歩近付く。


「寄宿舎を出られてから、どちらにおいでだったのですか?」


 ──コツン。靴音が不吉なものを運んでくるようだ。


「そのドレスやその髪……。どなたにいただいて、誰の赦しを得てされているの?」


 ──コツン。心臓が凍りついてしまうようだ。


「ねえ、お姉さま? なぜなにも話してくださらないの?」


 ──コツン。その一歩で女の手がアリエッタへと届く位置に来た。


「わざわざ可愛いあなたの妹が逢いに来たっていうのに」


 女が手を伸ばし、アリエッタの頬に触れた。


 絹地の手袋は肌触りが良いはずであるのに、棘が刺さってしまったかのよう、アリエッタの全身が粟立った。






 ──女の名はリリス・ザキファスと言う。


 アリエッタの唯一の妹にして、ザキファス公爵の最愛の“一人娘”。


 そしてアリエッタの本当の名はアリエッタ・ザキファス。


 決して誰にも告げることが赦されていない、本当の名だった。








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