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隠匿の令嬢
第8章 忍び寄る影
厳かに静まり返る礼拝堂の内部には、色鮮やかなステンドグラスの光が射し込み、その光を浴びている女が聖母像の前に佇んでいた。
女は薔薇色のドレスを纏い、手には同じ薔薇色の手袋が嵌められ、それは二の腕まで覆っている。
流れるような長く艶やかな淡いキャラメル色の髪は腰まであり、レースがふんだんにあしらわれたヘッドキャップを被っている。
ひとりでに扉がギィと音を鳴らして閉じると、女は緩慢に振り返る。
顔はヘッドキャップから垂れるレースの布に覆われて見えないが、オリーブ色の瞳をしていることをアリエッタは知っている。
「お姉さま、お久しぶりね」
鈴のように可愛らしい声だ。だが声色は剣呑とした雰囲気を醸し出している。
アリエッタは言葉を知らない子供のよう、言葉にならない声を小さく漏らすだけ。
「驚きましたわ。お姉さまったらすっかり変わられてしまったんだもの」
コツン……と一歩歩んでくる靴音がした。
しかしアリエッタは身動きひとつ出来なかった。
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