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隠匿の令嬢
第9章 息を殺して生きる理由
すでにその頃にはアリエッタの存在は、家の者以外には忘れ去られていた。
パーティーも開かれず、人前に出ないことから、いつしか両親の娘はリリス一人きりだったと記憶を塗り替えられたようで。
親族でも唯一アリエッタの味方をしてくれていた前ザキファス公爵も他界し、アリエッタを娘と同等に可愛がってくれていたルードリアン男爵も正式な公爵となった父にはアリエッタの扱いへの進言はもちろん出来ない。
序列の問題もあるが、これは家族の問題だから口出し出来るはずはない。
ニーナとは変わらず友人関係にはあり、なにかと気にかけてくれてはいたが、手紙のやり取りや、時おり人目を盗んで逢えるくらいで。
そんな折、“厄介者”のアリエッタに結婚話が持ち上がった。
まだアリエッタが14歳のときである。
“持ち上がる”というのは語弊があるかもしれない。人々から忘れ去られても、アリエッタがこの家の娘であるには違いない。
しかしいつまでも置いておくのも父は煩わしかったのであろう。
とある伯爵の──それも老齢で妻に先立たれた男の元へ嫁げと、突然言われたのだ。
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