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隠匿の令嬢
第10章 真夜中の逃亡と──


 大人の男女が同室を使うというのはどういうことか。昨夜までの無垢だったアリエッタとは違い、そのくらい解るだけの知識を得てしまった。


 アリエッタは一晩限りのつもりであったが、レオはそうではなかったのだ。


 不意にリリスの言葉が過る。


『未亡人や過去に犯罪を犯してしまった人や、それこそ娼婦であったり』


 ──“娼婦”という、未婚の女性が口にすべきでない単語が引っ掛かる。



 忙しく動く使用人たちの邪魔にならないよう部屋の隅で立ち尽くすアリエッタは「……娼婦」と呟く。


 誰の耳にも届かない、儚い声だ。


 ああ、そういうことか。レオの傍にいるという仕事は、レオのために身を捧げるということか。


 彼に気持ちがないのは解っていた。それでもレオはアリエッタの想いを受け止めてくれた。その果てに結ばれた。そして一度きりとは伝えなかった。





 すべてを理解した瞬間、冷たい風がアリエッタの心へと吹き込み、とても大切な何かを拐っていった。







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