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隠匿の令嬢
第3章 肉食獣は紳士の仮面を被る
随分と長いことアリエッタは絵筆を持ち続け、流石のアリエッタも集中力を途切らせ筆を置く。
「お茶が冷めなくてよかった」
しわがれた声にハッとしてそちらを向くと、白ひげを顎にたくわえる老紳士がティーカップを持って立っていた。
「ギルデロイ教授」
ギルデロイと呼ばれた老紳士はこの部屋の持ち主でもあり、アリエッタが絵を教えてもらっている教授だ。
彼は以前、宮廷画家を務めていたが、現在では後継にその地位を譲り、若く才ある者の育成に余生を捧げると決め、国立学校で教鞭〈キョウベン〉を執っている。
彼の最初の講義でいつも持ち歩いているスケッチブックがギルデロイの眼に留まり、それがきっかけで講義とは別に彼がアトリエとしている部屋で週に一回絵を教わっているのだ。
名のある画家に教わるのは気後れし最初は丁重に断ったが、彼の講義の準備を手伝うことと引き替えに、この大変栄誉ある申し出を受けるに至った。
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