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隠匿の令嬢
第16章 灰色の世界


 だがどうしても言えない。


 レオにリンゼイの婚約の有無を訊けないのは、レオの前でみっともなく泣いて、縋ってしまいそうで恐いのだ。


 レオは心根の優しい人だ。泣いて縋れば、アリエッタを見捨てたりしない。それが解るから恐いのだ。


 レオの幸せを望むアリエッタ自身が彼の幸せを壊し、同情で彼を繋ぎ止めてしまう。


 レオと離れるその瞬間まで笑顔でいなければ、レオも安心してリンゼイの元へは行けない。


 だから色のことも哀しみも隠し続けている。




 ではレオに抱かれるのを拒絶出来ないのはなぜか──。


 問うてみると、そこには醜い心のアリエッタがいた。


 こうしている間だけはレオはアリエッタに触れてくれ、独占できる。


 少なくとも彼の熱は。


 なんて愚かで、さもしくて。醜い独占欲なのだろう。


 この醜い心根だから、色を失ったのだ。


 ただひとりすべてを知る神がアリエッタに落とした罰なのかもしれない。






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