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隠匿の令嬢
第3章 肉食獣は紳士の仮面を被る


 カップに指をかけ、香りを楽しんでから口をつけるレオを前髪の奥にある双眸でそっと見詰めた。


 誰もが振り返らずにはいられない美貌に加え、香るような色気まで携え、気品ある優雅な振る舞いをする男だ。


 外見だけでも絵を描かずにいられない衝動に駆られるのに、アリエッタには彼の内側から醸し出す豊かな色彩を感じられる。


 ニーナの言葉が頭を巡る。描きたいのはレオだった。


『いい? 同じ芸術を志す者として敢えて言わせてもらうわ。これだ! これしかない! っていう対象と出逢えるのは奇跡よ。その奇跡を自分で手放すなんて大バカ者のすることよ。あたしはアリエッタがそんな大バカ者にならないと信じてる』


 あのあとニーナにそう言われた。


 アリエッタだって知っている。どんな素晴らしい景色も永遠にあるわけじゃない。


 太陽の光や空気、そのときの感情。色々な偶然が重なって奇跡的な巡り合わせがあるのだ。


 レオと出逢えたのも奇跡に近い。いや、奇跡そのものだ。


 きっとレオを描かなければ生涯後悔し続けるだろうことは、確信に近かった。






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